呪われたオタクと内面世界

感動、爆笑した物語の感想や解釈を語ります。

”世界二つ目”の音楽漫画『PPPPPP』1話感想 音がない漫画の演奏シーンから音楽が伝わってくる!?

 私が知る限り、まだ世界には二つしか音楽を漫画化した作品はありません……。

 

 音楽を題材にした名作漫画は、すでに世の中にたくさんあります。
BLUE GIANT』『のだめカンタービレ』『青空エール』『心が叫びたがってるんだ。』『いつもポケットにショパン』『BECK
 私が読んだことがあって、すぐに思いつくのはこのあたりです。
 いずれも面白い作品で、特に青空エールは何度も号泣しました。

 

 ですが、批判を覚悟であえて言いましょう! これらの作品は全て、音楽を漫画化した作品ではありません!

 もう一度、断っておきますが上記の5作はいずれも面白いです。


 ですがひとまず、BLUE GIANT 1巻のとあるシーンを見てみましょう。

f:id:shiraiwa_huto:20210918111802j:plain

 画力・表現力ともに申し分ないですね。サックスの音圧が伝わってきそうな迫力と申しておきましょう……。
 主人公の宮本 大はこのとき高校生で、ジャズの魅力にはまりサックスのプロ奏者を目指していく、という物語です。

 

 そして巻数が進み、大は音楽の盛んなドイツ・ミュンヘンへ乗り込み、現地でバンドを組み、ライブを重ねていきます。その時のワンシーンがこちら。

f:id:shiraiwa_huto:20210918112104j:plain

 画力・表現力ともに申し分ないですね。サックスの音圧が伝わってきそうな迫力と申しておきましょう……。
 いや、ちょっと待ってください……1巻の表現から何か変わりましたか? 具体的に、明確に何か進化しましたか?

 

 そうです。
 漫画超大国、最先端の日本であっても、音楽漫画の演奏シーンはほぼ同じです。(超失礼を承知で申し上げます)
 演奏者、楽器、演奏する動き・ポージング・表情、音符、音圧など表現方法はこんなところでしょうか。

 

 私はことエンタメに対しては薄情です。「演奏シーン全部似たようなものじゃん」と認識しています、飽きています。演奏シーンに関してはとたんに読み飛ばしています。

 

 当たり前ですが、漫画から音は聞こえてきません!
 そうです……悲しいことに漫画で音楽を表現することは出来ないのです……。

 

 私は必ずしも漫画より、アニメ・映画の方が優れていると言うつもりはありません。
 ですが、こと音楽漫画に関しては、映像化して実際に音楽を乗せると演奏シーンの迫力が桁違いに変わってきます。

 

 ……漫画で音楽を表現できないと言いましたね。
 私が知る限り、世界には今まで一つだけ、音楽を漫画化した作品がありました。
 そして今日、二つ目の作品がこの世に生誕し、高らかに音楽を奏であげました。

 

 それは、どちらも世界最先端の漫画雑誌、週刊少年ジャンプで生まれた作品です。
 私は非オタの友人にジャンプ作品を紹介するとき、「日本のジャンプはアメリカでいう所のハリウッドのようなものだ」と主張しています。
 昨今の『鬼滅の刃』の社会現象を思い出していただければ、言わんとしていることは分かりますでしょうか。

 

 ここからネタバレありで1話の感想を書いていきます。ネタバレを見たくない方はお引返し下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日、7卵生の7つ子が誕生しました。
 7つ子たちは、世界三大音楽コンクールをやすやすと全制覇したピアニスト・音上楽音(おとがみがくおん)の子供で、その内の6人は天才6つ子ピアニストとして中学生ながら世界で活躍し始めています。

 

 主人公のラッキーは兄妹の中でただ一人の凡才でした。父の楽音からは見捨てられますが、母ちゃんだけは庇ってくれます。
 楽音と母ちゃんは子供の扱いをめぐって離婚します。6人は楽音についていき、ラッキーだけ母ちゃんに付いていきました。

 

 ですが母ちゃんはその後 病気で入院し、ラッキーは意地悪な叔母に引き取られ、シンデレラばりに悲惨な生活を送っているのですが……。
 という導入です。

 

 そこからミステリアスなヒロイン(?)が表れたり、再びラッキーが音楽と向き合ったり、音楽学校の入試試験で演奏を披露したり、というのは詳しくは書きません。

 

 大事なのは、この作品は音楽を漫画化している、ということです。
 1話では二つの表現がありました。

 

 ラッキーが学校の廊下を歩いていると、階段の上から音楽が聞こえてきます。それはヒロイン(?)が7つ子の一番上の長男の演奏をスマホから漏らしているものでした。

 

 どういう表現をしているかと言うと、ただの階段が、皇帝に謁見する玉座、そこに向かう階段に変わります。
 荘厳な宮殿、一面のステンドグラス、玉座に堂々と座る皇帝、階段にずらりと整列する家臣たち。
 おまけのアクセントとして学校と王宮をつなげる”階段”は、神秘的にピアノの鍵盤模様が施されています。
 さらにこの曲は、モーツァルトのピアノ協奏曲26番、実際に神聖ローマ皇帝オポルト2世の戴冠式で演奏された曲なんだそうです。

 

 そうだよ! 私だって音楽漫画の演奏シーンで驚きたいし、感動したいんだよ! 私だって音楽は好きだよ!

 

 このシーンをまだ見ていない人は、文章だけでなく是非 漫画で見てください!

 

 

 二つ目の表現は、音楽と再び向き合うことを決めたラッキーが、音楽学校の入試試験で演奏するシーン。ラッキーは思い出深い『きらきら星変奏曲』を弾き始めます。

 

 その時、試験官の一人は以上を察知する!
 ふ、風景が変わった!? ラッキーの周りに6人の子供たちが群がっている。
 自分は無機質な机に座っていたはずなのに、いつの間にかシックな机に変わっていて、身に覚えのないマグカップがおかれている。
 それを恐る恐る口にして「…え――飲めんぞ コレ」

 

 じゃねーよ! ナイスリアクション!

 

 子供の一人が戸惑う試験官に気が付いて「なあに? ママ」と話しかける。
 という所で元のシーンに戻りました。

 

 このシーンをまだ見ていない人は、文章だけでなく是非 漫画で見てください!

 

 音楽の演奏シーンで、漫画で、誰がこんな表現をできますか?

 映画やアニメでは、音としての音楽があるため、あえて絵で音楽を表現しようと言う発想に中々至らないでしょう。

 これは唯一無二、この作者のマポロ3号さんにしか出来ない表現です。

 

 単純な画力で言ったら、『PPPPPP』は『BLUE GIANT』に及ばないでしょう。おそらくマポロ3号さんはこれが初連載の若手作家だと思われます。

 

 ですが私は「ああ、これでまた、漫画で音楽を賛歌することが出来る。この驚きと感動を久しぶりに味わえる」と喜びに打ち震えました。
 週刊少年ジャンプを購読していないものの、その驚きと感動を味わいたい人は、すでに完結済みの”超視覚型”吹奏楽漫画『SOUL CATCHER(S)』をオススメします。(いつかこっちもレビューします。)

 

 今週のアンケート1位はもちろん『PPPPPP』
 最後に二つ。

 

 頼む、母ちゃん死なないでくれ!
 そして頼む、打ち切られないでくれ!

f:id:shiraiwa_huto:20210918112120j:plain