”世界二つ目”の音楽漫画『PPPPPP』1話感想 音がない漫画の演奏シーンから音楽が伝わってくる!?
私が知る限り、まだ世界には二つしか音楽を漫画化した作品はありません……。
音楽を題材にした名作漫画は、すでに世の中にたくさんあります。
『BLUE GIANT』『のだめカンタービレ』『青空エール』『心が叫びたがってるんだ。』『いつもポケットにショパン』『BECK』
私が読んだことがあって、すぐに思いつくのはこのあたりです。
いずれも面白い作品で、特に青空エールは何度も号泣しました。
ですが、批判を覚悟であえて言いましょう! これらの作品は全て、音楽を漫画化した作品ではありません!
もう一度、断っておきますが上記の5作はいずれも面白いです。
ですがひとまず、BLUE GIANT 1巻のとあるシーンを見てみましょう。
画力・表現力ともに申し分ないですね。サックスの音圧が伝わってきそうな迫力と申しておきましょう……。
主人公の宮本 大はこのとき高校生で、ジャズの魅力にはまりサックスのプロ奏者を目指していく、という物語です。
そして巻数が進み、大は音楽の盛んなドイツ・ミュンヘンへ乗り込み、現地でバンドを組み、ライブを重ねていきます。その時のワンシーンがこちら。
画力・表現力ともに申し分ないですね。サックスの音圧が伝わってきそうな迫力と申しておきましょう……。
いや、ちょっと待ってください……1巻の表現から何か変わりましたか? 具体的に、明確に何か進化しましたか?
そうです。
漫画超大国、最先端の日本であっても、音楽漫画の演奏シーンはほぼ同じです。(超失礼を承知で申し上げます)
演奏者、楽器、演奏する動き・ポージング・表情、音符、音圧など表現方法はこんなところでしょうか。
私はことエンタメに対しては薄情です。「演奏シーン全部似たようなものじゃん」と認識しています、飽きています。演奏シーンに関してはとたんに読み飛ばしています。
当たり前ですが、漫画から音は聞こえてきません!
そうです……悲しいことに漫画で音楽を表現することは出来ないのです……。
私は必ずしも漫画より、アニメ・映画の方が優れていると言うつもりはありません。
ですが、こと音楽漫画に関しては、映像化して実際に音楽を乗せると演奏シーンの迫力が桁違いに変わってきます。
……漫画で音楽を表現できないと言いましたね。
私が知る限り、世界には今まで一つだけ、音楽を漫画化した作品がありました。
そして今日、二つ目の作品がこの世に生誕し、高らかに音楽を奏であげました。
それは、どちらも世界最先端の漫画雑誌、週刊少年ジャンプで生まれた作品です。
私は非オタの友人にジャンプ作品を紹介するとき、「日本のジャンプはアメリカでいう所のハリウッドのようなものだ」と主張しています。
昨今の『鬼滅の刃』の社会現象を思い出していただければ、言わんとしていることは分かりますでしょうか。
ここからネタバレありで1話の感想を書いていきます。ネタバレを見たくない方はお引返し下さい。
ある日、7卵生の7つ子が誕生しました。
7つ子たちは、世界三大音楽コンクールをやすやすと全制覇したピアニスト・音上楽音(おとがみがくおん)の子供で、その内の6人は天才6つ子ピアニストとして中学生ながら世界で活躍し始めています。
主人公のラッキーは兄妹の中でただ一人の凡才でした。父の楽音からは見捨てられますが、母ちゃんだけは庇ってくれます。
楽音と母ちゃんは子供の扱いをめぐって離婚します。6人は楽音についていき、ラッキーだけ母ちゃんに付いていきました。
ですが母ちゃんはその後 病気で入院し、ラッキーは意地悪な叔母に引き取られ、シンデレラばりに悲惨な生活を送っているのですが……。
という導入です。
そこからミステリアスなヒロイン(?)が表れたり、再びラッキーが音楽と向き合ったり、音楽学校の入試試験で演奏を披露したり、というのは詳しくは書きません。
大事なのは、この作品は音楽を漫画化している、ということです。
1話では二つの表現がありました。
ラッキーが学校の廊下を歩いていると、階段の上から音楽が聞こえてきます。それはヒロイン(?)が7つ子の一番上の長男の演奏をスマホから漏らしているものでした。
どういう表現をしているかと言うと、ただの階段が、皇帝に謁見する玉座、そこに向かう階段に変わります。
荘厳な宮殿、一面のステンドグラス、玉座に堂々と座る皇帝、階段にずらりと整列する家臣たち。
おまけのアクセントとして学校と王宮をつなげる”階段”は、神秘的にピアノの鍵盤模様が施されています。
さらにこの曲は、モーツァルトのピアノ協奏曲26番、実際に神聖ローマ皇帝レオポルト2世の戴冠式で演奏された曲なんだそうです。
そうだよ! 私だって音楽漫画の演奏シーンで驚きたいし、感動したいんだよ! 私だって音楽は好きだよ!
このシーンをまだ見ていない人は、文章だけでなく是非 漫画で見てください!
二つ目の表現は、音楽と再び向き合うことを決めたラッキーが、音楽学校の入試試験で演奏するシーン。ラッキーは思い出深い『きらきら星変奏曲』を弾き始めます。
その時、試験官の一人は以上を察知する!
ふ、風景が変わった!? ラッキーの周りに6人の子供たちが群がっている。
自分は無機質な机に座っていたはずなのに、いつの間にかシックな机に変わっていて、身に覚えのないマグカップがおかれている。
それを恐る恐る口にして「…え――飲めんぞ コレ」
じゃねーよ! ナイスリアクション!
子供の一人が戸惑う試験官に気が付いて「なあに? ママ」と話しかける。
という所で元のシーンに戻りました。
このシーンをまだ見ていない人は、文章だけでなく是非 漫画で見てください!
音楽の演奏シーンで、漫画で、誰がこんな表現をできますか?
映画やアニメでは、音としての音楽があるため、あえて絵で音楽を表現しようと言う発想に中々至らないでしょう。
これは唯一無二、この作者のマポロ3号さんにしか出来ない表現です。
単純な画力で言ったら、『PPPPPP』は『BLUE GIANT』に及ばないでしょう。おそらくマポロ3号さんはこれが初連載の若手作家だと思われます。
ですが私は「ああ、これでまた、漫画で音楽を賛歌することが出来る。この驚きと感動を久しぶりに味わえる」と喜びに打ち震えました。
週刊少年ジャンプを購読していないものの、その驚きと感動を味わいたい人は、すでに完結済みの”超視覚型”吹奏楽漫画『SOUL CATCHER(S)』をオススメします。(いつかこっちもレビューします。)
今週のアンケート1位はもちろん『PPPPPP』
最後に二つ。
頼む、母ちゃん死なないでくれ!
そして頼む、打ち切られないでくれ!